史実を歩く (文春新書)



史実を歩く (文春新書)
史実を歩く (文春新書)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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誠実な、職人ような仕事ぶり

吉村氏がこれまで小説の取材を行ってきた際のこぼれ話を集めたものです。いくつかのエピソードが心に残るとともに、氏の小説、ひいては歴史というものに向き合う真摯さが伝わってきます。

高野長英はその逃亡生活を終え(処刑)、それと期をひとつにするように、12歳の娘は遊郭に売られてしまいます。彼女は火災で亡くなりますが、そのお墓を氏は探索、しかしあては獏とし見つかりません。桜田門外ノ変で井伊直弼を討った17人のうち、水戸藩士2人は生き残り、天寿を全うしています。(水戸藩士リーダー格の関が捕らわれるまでの逃亡跡を追った調査も心に残ります。なお、氏の井伊大老に対する評価は世間のものからは相対的に高くこの点も興味深い)。また、刑務所の取材で出会う、引退後も服役者のことは例え家族にも言外しません、と言った老刑務官の凛とした姿も心象に残ります。

あくまで具体的に、丹念に取材を重ね、そこで得られた事実を作家の目を通して印象的に仕上げていく、誠実な職人のような仕事ぶりが目に浮かぶようです。
吉村史伝の舞台裏

歴史小説の名作を数々生み出した吉村昭氏が、資料探索の苦労や面白さ、秘められたエピソード、失敗談など、いわば作品の余滴ないしは余禄ともいうべき「副産物」をエッセーに託して語ったもの。各エッセーはそれぞれ個別の作品と対応関係にあり、採り上げられた作品を読んだ後に本書の対応部分を読むと作品理解が一層深まるはず。個人的には、かつて一読して感銘を受けた『生麦事件』のいわば「現場検証」プロセスを書き記した「生麦事件の調査」が印象に残った。(真犯人は誰か、検事も顔負けの捜査能力!)吉村作品を深く味わうための好適の一書としてお薦めしたい。
謎解き

歴史小説を著者は探偵小説のように書いていると感じた。
謎解きという面がある。
他の作家にも、多かれ少なかれそうした要素は
あるに違いないが、著者は徹底している。
だからこそ、読者も安心できるし、
著者の言葉に重みを感じる。
自分が納得できないことは、徹底して調べる。
最後に頼るのは、小説家としての勘。
あるだろうと思ってでかけた先に、
待っていたように史料がある、というのも
この類だ。ある種職人の仕事である。
史実自体がドラマである。
それを上手に調理する料理人の冴えを感じる。
歴史モノの裏側にある苦労やそれを上回る喜びが知れる一冊

 本書は、実際に史料や当時/当事を知る人に接して感じたこと、歴史を扱う上で気をつけるべきことについて書かれています。
 歴史をとり上げるにあたり、史実に忠実にあろうとする真摯な態度、また史料に触れる過程での地域の歴史家や事件関係者の子孫との邂逅について、淡々としながらも暖かみのある文章で書かれていて、読んでいて清々しい一冊でした。

 過去のことを扱う上で、文筆家も研究者も、基本的な態度は変わらないのだなあと感じました。
 いわゆる歴史モノ(フィクション・ノンフィクション問わず)が書かれるまでのプロセスに興味のある方や、郷土史について知りたい方にオススメです。また、歴史学に興味のある学生にも手にとって読んでもらいたい本です。

 自分になじみのある土地にも、実は歴史的価値のある史料が世間には知られることなく埋もれているのではないか、とロマンを抱かせてくれる一冊でもあると思います。
事実にこだわるとはこういうことか。

吉村昭は徹底している。ある事件を扱う時、その日の天候まで調べ上げる。そうしないと絶対に作品の中に描写しないのだ。それで合点した。吉村昭の作品の中に「色」を示す描写が極端に少ないことを。彼の作品風景はどれも鮮明なモノクロームだ。

本書では、「破獄」「桜田門外ノ変」「生麦事件」などでさらりと描かれた挿話を獲得するまでの膨大な背景と奥深いエピソードが満載されていて、どれも興味がつかない。これを読んだ後に吉村昭の小説に入るのもいいし、最初に小説世界に触れた後で本書を手にしてもいい。お得な1冊です。



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